アヒルの子から白鳥に?〜ヴィオラの魅力〜 (2)




「ヴィオラにもある、あの名曲の聴きどころ」

 さて、曲を聴く時に、普段はヴィオラなんて気にしたことないよ、という方のためにも、たまには違った聴き方をするのも面白いですよ、という意味も込めて、できるだけ有名な曲の中から、ヴィオラがメロディーを弾いているとか、あるいは「ここに注目して!」というようなヴィオラの聴きどころについて紹介したいと思います。

・ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調「運命」〜第2楽章

 私ごとですが、1番最初にクラシックを聴き始めたころに、緩徐楽章の魅力と言うものに最初に目覚めさせられたのがこのメロディでした。冒頭から、チェロと一緒に旋律を弾きます。ここはチェロのメロディじゃないか!と言う方も多いでしょうが、「ヴィオラも弾いてます」。この旋律は再現されて提示されるたびに音型が細かくなっていきます。

・ベートーヴェン:交響曲第7番〜第2楽章

 これも第2楽章、冒頭、木管楽器の短い導入の後、ヴィオラがこの楽章のメインテーマであるメロディを弾き始めます。「単純なリズムの繰り返しが魅力的な音楽を構成する」というこの交響曲の特徴を最もよく表している部分であり、くすんだヴィオラの音色がとても効果をあげています。この後の、ヴァイオリンの裏で対旋律もチェロと一緒に弾きます。

・メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」〜第1楽章

 作曲者の個性がよく出ている端正な味わいのある名曲。この曲の冒頭、全曲のイメージを印象付ける物憂げな旋律がヴィオラとオーボエのユニゾンで始まります。

・ベルリオーズ:幻想交響曲〜第5楽章

 ベートーヴェンの第九から7年しか経っていない年のものとは思えない曲。ヴィオラとしては第1楽章(166小節〜)や第3楽章(69小節〜)などにも旋律を弾く場面がありますが、特に第5楽章、魔女のロンドの主題をヴィオラが最初に提示する部分(106小節〜)は、演奏会では事故が起こりやすい部分だけに、弾く側としては緊張します。

・チャイコフスキー:交響曲第5番〜第2楽章、第3楽章

 第2楽章の冒頭、有名なホルンの旋律が出てくるまでの間の暗い弦の響きを作っているのはヴィオラ。その後、チェロがひとしきり音楽を盛り上げたあと、この曲で一番の旋律?(45小節〜)を第1ヴァイオリンとヴィオラが弾き始めます。
 第3楽章はどこかバレエ音楽のようなワルツ。16分音符の速いパッセージの第1ヴァイオリンとヴィオラの駆け合いが聴かれます(81小節〜)。

・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」〜第1楽章

 第1楽章、コントラバスとファゴットによる重々しい開始にヴィオラが絡んできます。アレグロ・ノン・トロッポになり、音楽がやや速度と緊張感を増していく場面も、しばらくの間ヴィオラが重要な役割を担うように書かれています。ヴィオラまで2声部に分けて書かれており、弦楽器の書法が拡張されてきています。

・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

 冒頭、ホルンと木管のコラールの後、チェロが非常に渋くてかっこいいメロディを引き始める時(16小節〜)に、ヴィオラは裏で半音階的な伴奏をやっています。特別目立つわけでもないですが、こういうさりげない部分のヴィオラはなかなか良いですね。音楽がやや性格を変え、アレグロにテンポが速まる部分(81小節〜)でヴィオラが非常に目立つ、というか全曲の中で重要なパッセージ(「ヴェーヌス山の動機」)を提示します。これはその後何回か繰り返され発展していきます。

・ブラームス:交響曲第1番〜第1楽章、第4楽章

 第1楽章、アレグロの途中( 157小節〜)。「ミレド、ミレド」と、わずか3つの音を2回弾くだけの部分ですが、耳に残る使われ方です。
 第4楽章、長い長い前置きが終わって第1ヴァイオリンが有名なメロディを弾き始める部分(62小節〜)。ヴィオラは対旋律ですが、特に後段の下降音型はよく響くので弾きがいがあります。

・ブラームス:交響曲第2番〜第1楽章

 第1楽章の第2主題(82小節〜)を聴いてみてください。これはチェロがメロディーで、ヴィオラはその3度下の伴奏ですが、チェロの音色の豊かさとヴィオラの音色の渋さとが非常によくマッチしています。この曲を初めて知ったときは、「なんでチェロが上なんだ」と複雑な心境だったのですが、やはり適材適所と言うのはこういうことなんでしょう。

・ブラームス:交響曲第3番〜第2楽章、第4楽章

 第2楽章、冒頭クラリネットがメロディーを吹きますが、その節目に中低弦の「合いの手」が入ります。短い部分ですが、穏やかで柔らかいヴィオラの音色がクラリネットのソロを引き立てています。
 第4楽章、曲が静かなコーダに入る部分( 252小節〜)で、弱音器をつけたヴィオラが導入の旋律を弾きます。

・ブラームス:交響曲第4番〜第2楽章

 第2楽章、どことなく現実離れしていて、夢遊病者の夢のような?牧歌的な楽章。再現部(64小節〜)ヴィオラがメロディーを歌う部分があります。8小節間ではあるけれどテンポの遅い楽章なので、結構長く感じられるヴィオラの見せ場です。

・ドヴォルザーク:交響曲第7番〜第1楽章

 冒頭、チェロとユニゾンでメロディを弾きます。

・ドヴォルザーク:交響曲第8番〜第1楽章、第4楽章

 第1楽章、最初の方にチェロと一緒にファンファーレ的なメロディ(39小節目)を弾きます。また、このメロディは中盤( 174小節〜)に変形された旋律をクラリネットとヴィオラが弾く部分があります。

 第4楽章途中、巷で「こがねむし」に似ていると評判?の部分( 120小節〜)。ヴィオラはリズムを刻んでいるだけですが、これを屈託なく演奏するには、恥じらいを捨て去る「ふっきり」が必要です。

・ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」〜第4楽章

 第4楽章、154小節〜ここでもC線のフォルテシモで始まるスラブ的なリズムをフルートとクラの旋律の下で刻み続けるのですが、一応よく聞えますので。

・ブルックナー:交響曲第3番〜第3楽章、トリオ

 ブルックナーの弦楽器の書法は、弦をひとかたまりとしての弦楽器群という扱いが多く、ヴィオラが目立つと言う部分はそう多くはないのですが、この部分はヴィオラにメロディを受け持たせています。

・R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」

 この曲は、チェロとヴィオラにソリストが必要で、2人のソリストには非常に高度な技巧が要求されている点ではダブルコンチェルトのような曲です。ただ、役割としてはチェロがドン・キホーテで、ヴィオラは従者のサンチョなので、チェロの方が格好いいのは仕方ないですが。オケのヴィオラパートも、曲の最初の方で、全曲を象徴する主題を歌う場面があり、全曲を通して聴きどころに恵まれています。

・マーラー:交響曲第1番「巨人」〜第4楽章

 熱狂的な情熱を帯びている最終楽章、中盤、静寂に包まれた音楽がひとしきりあり、それを再び熱狂へと再現させる過程で、マーラーはヴィオラのC線で音を割るようなフォルテシモという斬新なオーケストレーションにより、独創的な効果をあげています(519小節〜)。

・マーラー:交響曲第9番〜

 マーラーが完成した最後の交響曲で、極限までの精緻なオーケストレーションはほかの多くの楽器と同様、ヴィオラにも多くの聴きどころを与えています。

 例えば第1楽章では冒頭から、黄泉の国をさまよっているかのような?6連符が印象的です。また第2楽章(384小節〜)、第3楽章(484小節〜)、第4楽章(34小節〜)の各楽章で、ヴィオラの首席によるソロの場面もあります。

 特筆すべきは、最終楽章の最後の部分、極度の緊張感の中で、聴く者に確実に「死」を連想させずにはおかない静謐な音楽が続く部分、その全曲の締めくくりがヴィオラの3連符によって終止符が打たれることの意味は重大なものがあると言えるのではないでしょうか。

・マーラー:交響曲第10番〜第1楽章

 未完成に終わった曲。今日第1楽章のみが演奏されることが多い。前述の第9番の終止部の続きが始まるかのように、冒頭からアンダンテのヴィオラの長いモノローグによって曲が開始され、重厚なアダージョと交代しながら曲が進みます。

・ラヴェル:バレエ「ダフニスとクロエ」

 第3幕、夜明けの部分の音楽(第2組曲なら冒頭)。大自然が目覚めていく過程を描いた非常に美しい音楽。コントラバスから始まって引き継がれていく3拍子のゆったりとした動機が、やがてヴィオラとクラリネットのメロディに収束して行きます(練習番号158〜)。この音域のこの音色でなければ出せない音楽的感動があるという意味において、ヴィオラが最も効果的に使われている例として、絶対に外せない重要な場面です。

・プロコフィエフ:交響曲第5番〜第2楽章、第4楽章

 第2楽章、アレグロ・マルカートの中盤のところ(練習番号37)、流れるように軽快な3拍子、クラリネットと一緒にメロディを弾く場面があります。

 第4楽章の始めの方、チェロが4部に分かれて美しいハーモニーを奏でた後、ヴィオラが4小節間はだかになって、C線で特徴的なリズムのメロディを弾きます(練習番号79)。私は初めてこれを聴いた時は「なんでヴィオラの役回りって、こんなのばっかりなんだろう?」と複雑な心境だったのですが、聴き慣れてくればそれほどでもないかも。

・ヒンデミット:交響曲「画家マチス」

 ヒンデミットもヴィオラを演奏したということもあって、ヒンデミットの管弦楽曲にヴィオラが活躍する曲は多いようです。画家マチスにおいても、曲の冒頭から随所にヴィオラの目立つ部分があります。特に第1楽章の古典風のメロディ(練習番号12)や、第3楽章の朗々と歌うメロディ(練習番号21)は、楽章を特徴付けるメインテーマとの強い関連を持っています。


「じっくりヴィオラを聴きたいときは」

 大管弦楽曲の中のヴィオラは、音も埋もれがち。もう少しじっくりヴィオラを聴きいてみたいという方は、室内楽曲を聴いてみてください。オケのヴィオラに比べて、弦楽四重奏などのジャンルの方が、ヴィオラの担っている役割ははるかに大きいと言えます。
 またヴィオラ・ソナタやヴィオラ協奏曲は、他の楽器に比べれば曲の数は少ないのですが、それでもCDも何枚か出ており、ヴィオラ目当てでなくとも聴いて損しない名曲も少なくありません。

ヴィオラが活躍する室内楽

・スメタナ:弦楽四重奏曲第1番「我が生涯より」 ・ブラームス:弦楽六重奏曲第1番 ・ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第14番「アメリカ」 ・ドビュッシー:フルートとハープとヴィオラのためのソナタ

ヴィオラの独奏曲

・ブラームス:ヴィオラソナタ第1番、第2番 ・ヒンデミット:ヴィオラソナタ第1番 ・ショスタコーヴィチ:ヴィオラソナタ ・ブリテン:ラクリメ

ヴィオラの協奏曲

・モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 ・ベルリオーズ:ヴィオラ独奏付交響曲「イタリアのハロルド」 ・バルトーク:ヴィオラ協奏曲 ・ウォルトン:ヴィオラ協奏曲 ・シュニトケ:ヴィオラ協奏曲


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