マラ7攻略日記(水響 ホルン編) 第4回 (1999/6/13)

座禅でも・・・

6/13(日)  5回目の練習日

 6/9に、N響主席ホルン奏者の松崎さんが紀尾井ホールで2月に行ったリサイタルの模様が、BS2で放映された。噂に は聞いていたが、とてもきれいなアンブシュアで、タンギングや跳躍にもビクともしない。やはり日本を代表するホルン 吹きともなると全然格が違う。せめて足元くらいには届くようになりたいものである。

●梅雨時でも乾燥に注意
 最近とても暑いので、練習場はクーラーが良く効いている。床に穴が開いた風通しの悪い昔の練習場に比べたら天 国のようであるが、クーラーの風が直撃するため乾燥してしょうがない。ブレスを取ろうとすると咳き込んでしまって練 習にならない。何か飲みながらの練習はえらく行儀が悪いので嫌いなのだが、今日は仕方なくウーロン茶を飲みなが ら練習に臨むことに。
 「乾燥」といえば、IHS(国際ホルン協会)の会長が「乾燥して吹けないというのならクラッカーを食べてから吹く練習をし ろ」などと厳しいことを述べている。これは「甘えをなくす」という点では的を射ているが、実態面から考えるととても実 行できない。


 さて、今日の練習は2,4楽章である。前回の練習はほとんど初見状態だったため、ソロで緊張する余裕がないほど音 を出すことに集中することができた。しかし、練習も回を重ね改めて考えてみると、どちらの楽章も大変なソロが目白 押しである。練習前にどんどん緊張感が高まる。今日の練習は、第1楽章をみっちり2時間というハードなものだった。

【第2楽章】

 「ううむ、これは・・・」というテンポ。この前の練習よりも遅い。3rdホルンには可哀相であるが、1stにとっては、楽章の 最後に3連符がたくさんあるソロが随分楽になる。あとはリズムをどうきっちりとるかが問題である。

●走るな!
 廊下ではない(念のため)。これだけテンポが遅いと、各奏者のリズム感の良し悪しが図らずも露呈してしまうところが 面白い。クレッシェンドすると走る人、スラーがすべって走る人、下降系だと走る人、リズムがずっと同じだと走る人、 「タッタカ」のリズムだと走る人・・・。一方で、自分のフレーズの終わりは必ずrit.する人がいるので、どうにもならない状 態である。声を大にして言いたい。

メトロのノームを使ってさらいましょう!

●CD依存はやめよう
 こういったリズム感の悪さは「地」のものもあるが、意外と多いのはCDの聴きすぎである。「自分の愛聴CDと同じよう にやりたい」という欲求がムラムラっと出て来たりする。CDを聴きすぎているときは、ちょっとした気の緩みがリズムの ズレを生んでしまう。自分たちがオケでやっていることはCDの再現ではなく、自分たちの音楽を表現することなのだと いう当たり前の感覚を忘れないようにしよう。表現するモノは「自分たちの音楽」なのだから、音楽を持ってない人には 「演奏者失格」とは言わないまでも、「キミ、空っぽだね」と言ってしまいそうである(「ピーマン」はさすがに死語か)。もっ と「自分自身の魂の叫び」を大切にしよう。

【第4楽章】

これはもう間違いなくホルンソロの曲であるということを改めて認識した。

●意外にいい感じ?
 前回(第2回)の日記に書いたように、皆で余裕を持った雰囲気でアンサンブルができれば、結構うまくいく曲である。 皆曲を覚えてきたせいか、今回の練習はなかなか良いようだ。

●でもfになるとやっぱり水響
ゆったりしたところは、結構それっぽく響いているが、fになるとやっぱり水響、なぜかそれまでの雰囲気を忘れ「怒涛 のような」演奏になってしまう。以前、某オーボエ奏者が、水響の演奏するモーツァルトの「プラハ」のあまりの熱い雰囲 気に「カルミナプラーハ」などと言っていたが、今回のマラ7の4楽章もそれに近い。


練習後の感想

●中途半端が一番危険
 練習が進んでくると、皆曲を覚えるし、愛聴のCDなどができてくるため、演奏の方はどんどん勝手になってくる。音程 もリズムも、果ては吹き始めの位置までばらばらになってしまう。前回練習時は初見だったため、「適度な緊張感」と 「書いてある音を出そうという強い意志」があったのだが、慣れてくるといろいろと試そうとしてしまう。  中途半端な慣れは一番危険だ。譜読みで意外に良くでき、しかもある程度曲を覚えてきたために音程やリズムが逆 に甘くなったり、間違って1小節前に音を出してしまったりする。野球に例えるのはオジさんっぽくて好きではないのだ が、前の試合でいいピッチングをしたピッチャーが次の試合で打ち込まれたりする。演奏はピッチャーと違ってバッター に打たれたりしないが、そのかわりに指揮者の罵声や指揮棒が飛んで来たりする(水響はないけど)。

●精神修養が必要?
演奏技術の向上もさることながら、演奏者には精神修養が必要であろう。序曲みたいな短い曲は集中力が続くけれ ど、マラ7みたいに長大な曲に最初から最後まで集中力を保つのは非常に難しい。プロの著名な演奏家が、有名にな ってから哲学を学んだりしているという話がよく話題になったりするが、あれは精神を鍛えるためである(精神的に豊か になるためでもあるが)。集中力を高める方法はいろいろある。お茶を習うも良し、「α波に作用する」というちょっと怪 しいCDを聴くも良し...しかし、アマチュアでありかつ経験も浅い自分達が短期間で精神面を鍛えるとすれば、荒療治し かない。滝に打たれるのはちょっと恐いので、座禅ぐらいが適当だろうか。O本君の家が禅寺だったら良かったのだ が...


今日のワンポイントレッスン

※どうやったら美しいアンサンブルに〜音程編

 前々回(第2回)の予告に書いたが、美しいアンサンブルには良い音程が欠かせない。

 ◆アタマとシッポは基本
 前々回の日記に書いた通り、音の立ち上がりから音が変わる直前(あるいは音を止めるとき)までは、同じ音程を貫 きたいものである。例えば、スラーでソからシに上がる時、移り変わる直前に音程がずり上がってしまうというように、ス ラーで吹くときに音が変わる直前で音程が乱れる人が多いように思う。
 例えば1stが「ソ→シ」2ndが「レ→ソ」と吹いたとき、2人の音の変わるタイミングが同時であれば、1stの「ソ」と2ndの 「ソ」は切れ目も揺るぎもなくつながって聞こえるはずであり、そう聞えるのが一番美しい。でも「アタマとシッポ」の基本 ができていない場合、1stの「ソ」と2ndの「ソ」の間に「ソ」よりも若干高い音が一瞬混じってしまう。  このような音程のブレを生じさせないことは、楽器を吹く上で基本である。私は高校時代にこの点かなり注意された ため、私の高校時代の練習時間の多くがこの問題を克服するために使われたと言っても過言ではない。  「そんなの普通の人はできない」と思う人は、2楽章のはじめにあるホルン三重奏をお持ちのCDで聞いて欲しい。CD の演奏は絶対つながって聞えるはずである。

◆オケはチームプレーで成り立っている
 ただし、気をつける点は自分の音程だけではない。他人の音程にも注意が必要だ。もちろん、救いようもなく低くて合 わせようもないうえに音が揺れたりとか、音を出すたびに低かったり高かったり安定しないというのは論外であり、合わ せてもしょうがないのだが、ある程度の音程のズレはお互い補正するように歩み寄るべきであろう。したがって、音程 を聴き取る耳と、それを補正できる技術レベルは最低限必要となる
 オケはチームプレーで成り立っているので、全体としてどう聞こえるかという視点は不可欠である。内輪の演奏会で はなく一般聴衆も呼ぶのであれば、聴衆を呼ぶだけの最低限のレベルにはなるようにしよう。  とても一般的な話ではあるが、アマチュアの場合「楽しければいいじゃないか」という考えが強くなりすぎて、日頃の 鍛錬をおろそかにしてしまう傾向が強い。最近では入団オーディションをやるアマオケも増えており、それは「やりす ぎ」のような気がするが、一方で聴衆が求めているレベルというのは向上していると思われる。したがって、やはり聴 衆を呼ぶためのオケとしての最低限のエチケットとして日頃の鍛錬はもっと重視すべきであろう。

◆まずはイメージトレーニングから
 とはいえ、忙しい社会人の方に毎日さらえというのは現実問題として難しい面もある。毎日イメージトレーニングをす るだけでも効果があるので、日頃練習不足だと思う方にはイメージトレーニングを行うことを是非お勧めしたい。ちなみ に私のイメージトレーニング方法は次の通りである。

・まず、スコアを見て、自分のパートの役割を考える。
・次にCDを何種類か聴いてみる。
※CDは聴きすぎないように注意
・パート譜を見て歌い方と吹き方を考える
→実際に音を出してイメージとのズレの原因を検討

自己満足にならないために「鍛錬・鍛錬」


本番まで練習はあと10回!!

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※用語解説※

IHSの会長
 フロイディス・リー・ヴェクレのこと。かつてオスロフィルの主席ホルン奏者を務めた。ブヤノフスキーの歌心とオットー のパワーを併せ持つ怪物。昨年「ホルンがもっとうまくなる」という本の日本語版が発売され、ホルン吹きの間に大ブー ムを巻き起こした。千葉馨さんの「推薦のことば」も絶品。CDでは「狼の歌」が超おすすめ。


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