マラ7攻略日記(水響 ホルン編) 第14回 (1999/10/24)

最後は感謝

10/24(日)  15回目の練習日( G.P.)

 いよいよ最後の練習である。ただ、G.P.は大まかに曲の全体像をなぞる程度のものが通常であるため、個人においては、演奏に深みを加えるために最後の一味が必要である。
 カレーであれば、最後の一味は「愛情」(あのころはまだ榊原郁恵も若かった)、何でもOKなのが「味の素」、楽器の演奏であればスピリットであろうか。手っ取り早く一味を加えるとすれば、最上の音楽を聴いて、精神のレベルを上げることが重要である。


●バボラク
 というわけで、G.P.を1週間後に控えた10/16に、武蔵野文化会館で行われたバボラクのリサイタルを聴きに行った。
 日本に来てから交通事故で右手を骨折していたが、骨折を感じさせない見事な演奏だった。一部には、バボラクの演奏は歌がないなどという人もいるようだが、全然そんなことはない、構成力抜群かつ素晴らしい歌いっぷりで、「この曲はこういう風に吹くのか」と納得させられる演奏である。

●やっぱり「どう歌いたいか」が重要
 曲へのアプローチ方法には2つあると思う。1つは、音色やニュアンスなどを含めた技術面を積み上げていって曲に臨む方法。もう1つは、この曲をどう構成し、どう歌いたいかというのがまずはじめにあり、その上で、自分のイメージに近づけるために、足りない技術を伸ばしていこうとする方法である。基礎練はうまいけど曲を吹くと??となる人が前者のタイプ、基礎練よりも曲を吹いているときにより輝くのが後者のタイプである。
 ただ、技術的に非常に優れている場合は、それだけでも十分聴く価値があったりするので、前者のタイプの人が曲を吹いていても十分素晴らしいのだが、やっぱりどのように曲を演奏したいかが重要である。バボラクの演奏は、技術面は当然文句ないのだが、歌が違うし、何よりも全体の構成力が違う。「曲全体はこうだ」というのがひしひしと伝わってくる演奏なのだ。

●最後はイメトレと筋力アップ
 細かなチェックもさることながら、全体の構成をどうするかというのが非常に大きなポイントであることが、バボラクの演奏から判明した。これを養うには、やっぱりひたすらイメトレと筋力アップに励むことが必要だと思う。今さらできることはごくわずかだが、そのわずかの違いが本番では重要かもしれない。


 さて、今日はG.P.ということで、まずは全曲を通し、次いで各楽章からいくつかポイントとなる点を抜き出す形で練習が行われた。出来は本番でのお楽しみということで、出演者以外の読者のみなさんは、仕上がり具合を本番の演奏で是非お確かめいただきたい。
 これまでの合奏を通じて、ベルアップやタンギングの仕方など気づいた点を攻略日記に掲載してきたが、これまで書いてきた点は、「ホルンを吹くための基礎的な素養」とでも言える点が多かったと思う。マラ7と他の曲を比べて、マラ7のみに特に要求される点はどこか? といったら、最終的に克服すべきポイントとしては、バテの克服であると思う。
 ただ一口にバテとはいっても、体力的なものだけでなく精神的なものもあり、この2つが絡み合うことで、本番は悪循環を引き起こして失敗するというケースが多いと思われる。私が考える本番のバテをなくすキーポイントは、ブレス集中力精神的余裕の3点である。

【本番は次の点に注意】

◆ブレス
 ブレスがきちんととれていれば、口の筋肉に余計な負担がかからないので、バテにくくなるという説があるが、個人的にはまったくその通りだと思う。いくつかのソロ的なパッセージでブレスをきちんと決めていない箇所があったのだが、音楽的にも、バテの防止という観点からも良くないようだ。また、アンブシュアの乱れがないことは言うまでもないが当然のこととして、注意しておかなければならない点であろう。

◆集中力
 長い曲なので集中力が続かないことは、マラ7の練習がはじまった段階で予想されていたが、やはり最後までこの点が課題である。本番というのは何があるか分からないため、例えばボーっとしていて落ちてしまったりするとパニックになり、ブレスが浅くなったり余計な力が入ることになる。このことからも、バテ防止には集中力を高めることが必要であると言える。
 集中力を高めるには、ビタミンB1が良いそうだ。これから本番までの1週間、豚肉やチーズなどをばりばり食べることでビタミンB1を摂取して集中力を高め、ついでに体調を整えるように気をつけたい。

◆精神的余裕
 今日はもうG.P.だというのに、オケ全体のテンポ感がまだ今一つであった。通し練では、テンポを戻そうとして大きなザッツを出したり、余分な力を入れてしまったりしてしまい、無駄な動きがよりバテを誘ってしまったようだ。
 こういう場合、オケのテンポがズレても気を使いすぎてはいけない。大局観を持ってテンポのズレに臨み、乱れたオケに厳然たるテンポ感を示してあげるように、自己の演奏面にウェイトを置くのが正解だと思う。ズレを直そうと躍起になってフラストレーションをためると、余計なカロリーを消費し、本来楽器演奏に向けられるべきカロリーを使い果たしてしまう可能性もある。
 ヒトは、1時間のデスクワークでも60〜70kcalを消費すると言われており、ハラハラしながら本番で1時間30分も舞台上で演奏すると、せんべい1枚分くらいのカロリーを余計に消費してしまうことになる。つまり、統制するのではなく、演奏で示すのがバテも少なくて良いのである。
 アシをたっぷり使うのも、精神的な余裕を持って本番に臨むためには不可欠である。しかし、マラ7アシ日記では「言われたところ以外は吹かない」と明言されていたので、「本番中やばそうだなと思ったところも全部吹いてね!」と本番前に軽く頼んで、落ちたらアシのせいにするというのも一案であろう。

【水響としてのポイント】

 ホルン奏者としては、ここまで書いてきたことを忠実に実行していくことになるが、水響としては、あるいは水響のほかの奏者は、どんな点に気をつければいいだろうか?
 G.P.の状態から考えると、テンポ感の共有というのが最も重要なことだと思われる。

●テンポは合ってなんぼ
 合奏の状態は、テンポを引っ張って行こうとする一部の人と、それをあまり聞かずに独自の道を歩んでしまう人とのせめぎ合いという感じであった。テンポは合ってなんぼであり、速いから戻そうとか遅いから速くしようとかしてしまうと、本番ではグチャグチャになってしまう。本番のテンポが自然に聴衆に受け入れられるためには、次の点に気をつけて欲しい。

・伴奏かメロディか、テンポを作るパートかテンポの上に乗るパートかの役割をわきまえる。
・楽譜にかじりつかないように。
・この1週間はお気に入りのマラ7のCDなど聴かないように。
・他の人のテンポがおかしいからといって走ったり遅れたりしない。
・何といっても冷静さが大切。

●芸劇だって体育館と変わらない
 G.P.は体育館だからテンポが合わなかったと思っている人はいないだろうか?ハコのせいにしてはいけない!体育館でもばっちり合わせられるような演奏ができない自分自身の問題点を再認識すべきである。
 芸劇での演奏は、私は1回しかやったことがないが、舞台上の他人の音は他のホールに比べて各段に聞き取りにくいと思う。TOEICのlistening試験中に試験会場の前で選挙演説をやられてしまったときのあの状態に近い。また、跳ね返る音も聞えるので、演奏者にとっては、基本的に体育館と変わらない(客席で聴くと非常に良いホールなのだが)。
 芸劇は広いホールなので、無理をせず(といってもフォルテはあくまでもフォルテで)、音程と縦線を合わせて相乗効果で音量が出ているように聴こえさせることが重要であろう。

●最後は感謝の気持ちを
 最後に忘れてはならないのがこれ。フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(古いね)の演奏が素晴らしいのは、技術がすごいからだけではなく、観客・聴衆と一体となったステージが繰り広げられるからだ。技術だけなら、エンパイヤ・ブラスが突出しているし、音量ならニューヨーク・フィルのブラスアンサンブルで来たマイヤースがすごかった(らしい)。でもブラスファンがなぜか忘れられないのは、観客・聴衆と一緒に楽しむフィリップ・ジーンズ・ブラス・アンサンブルの響きである。(このHPの管理人さんは異論があるかもしれないが)
 結局最後は、わざわざ本番に来てくれたお客さまに、精一杯いい音楽を提供して楽しんでもらおうという心掛けが、練習の励みになり、いい演奏ができるようになるのだ。さらにはより多くチケットを配るようになり、リピートで来てくれる人がもっともっと増え、広告宣伝係のK松君も報われるわけである。「練習しないけど乗りたい」とか、「アマチュアだからいいよね」とかいう類の甘えは禁物。アマチュアの場合は、人間性がより演奏面に表れるのだから、毎日感謝、日々精進、商売(?)繁盛、という好循環を作り出すことが、演奏会の成功に不可欠なのだ。例え趣味でやっているといっても、他人を巻き込むのだから・・・


感謝感謝で positive cycle を!!


では、本番をお楽しみに...

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※用語解説※

バボラク
 ラデク・バボラクは、現在ミュンヘン・フィルで活躍しているホルン奏者。1994年、弱冠18歳のときに、難関とされるミュンヘン国際コンクールで1位となり、一躍脚光を浴びた。

落ちる
 合奏で演奏しなければならないところで入れなくなること。

マラ7アシ日記
 マラ7日記の作者が合奏を欠席してしまったときのアシの苦悩を書いた、第6回の日記のこと。


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